必ずしも旅館業が正解とは限らない?物件の形態で選ぶライセンス選定術

行政・法律

皆さんこんにちは、行政書士の鈴木です!
前回は、都内を離れた郊外やリゾート地で直面しやすい「浄化槽の人槽計算」や「サウナ設置の排水問題」といった、インフラ周りのリアルな現場の空気感をお届けしました。

↓前回はこちら

さて、宿泊ビジネスをこれから組み立てようとする際、多くの方が「せっかくやるなら、年間180日しか営業できない民泊(新法)よりも、365日フルで営業できる旅館業(簡易宿所など)のほうが絶対に良いよね!」と考えられるかもしれません。

確かに、稼働日数の多さは大きな魅力ですし、最初は誰もが旅館業での開業を目指そうとします。
しかし、物件の広さ、設備の状況、あるいは建物の歴史や構造によって、あえて民泊を選んだほうが圧倒的に手続きをスムーズに進められてスマートに開業できるケースもあれば、逆に旅館業でなければ絶対に成立しない特殊なケースもあります。うーん、どうやら必ずしも旅館業がベストとは限らなさそうです。

今回は、「旅館業 vs 民泊」の優劣ではなく、皆さんが手に入れた(あるいはこれから手に入れる)物件のポテンシャルを最大限に活かすための「プロのライセンス選定術」を徹底的に解説していきます!

1. 広い物件の落とし穴!「200㎡超えの用途変更」を回避してあえて民泊を選ぶメリット

第4回でも書きました「広大な古民家や別荘、更に補足すると、この『広さ』こそ」がライセンス選びの最大の分岐点になります。

地方や郊外で物件を探していると、150㎡や200㎡を超えるような、だだっ広くて魅力的な古民家や元ペンションのような物件に出会うことがよくあります。「これだけ広ければ、大人数のグループやファミリーをターゲットにできて良さそうだな」とワクワクしますよね。

しかし、ここで旅館業(簡易宿所など)を選択しようとすると、建築基準法上の「床面積200㎡の壁」が容赦なく立ちはだかります。

宿泊に使用する床面積が200㎡を超える物件を旅館業にする場合、建物の用途を「住宅」から「旅館・ホテル」へと変更する「用途変更に伴う建築確認申請」という、極めて難易度の高い手続きが必要になります。 これは単に書類を出すだけの手続きではありません。その建物を「現行の建築基準法」に完全に適合させなければならないため、古い木造の古民家などの場合、構造計算をし直したり、大規模な耐火改修工事が必要になったりします。

そこで活きてくるのが、「あえて民泊(住宅宿泊事業法)を選ぶ」という手続き上の戦略です。

民泊は、あくまで法律上「住宅」のまま人を泊める制度であるため、どれだけ建物が広かろうと、建築基準法上の用途変更手続きが原則として不要になります。

⚖️ 行政手続きの難易度から選択肢を逆算する

  • 旅館業の場合: 365日営業できるが、200㎡超の用途変更の手続きにより、現行法に適合させるための確認申請やそれに伴う大規模な改修工事が必要になる。
  • 民泊の場合: 180日の制限はあるが、建築基準法上の用途変更手続きそのものが原則不要なため、重い改修工事や煩雑な確認申請を回避できる。

この二択を迫られたとき、本当に365日営業にこだわって、確認申請から大規模な改修工事の手続きまでを強行するのが正解でしょうか?

行政手続きの視点から言えば、一度「用途変更の建築確認」という魔境に足を踏み入れると、次から次へと現行法に適合させるための連鎖的な是正指導が入り、手続き自体が長期化・泥沼化してしまうリスクを秘めています。

それならば、まずは手続きのハードルが圧倒的に低い「民泊」として届出を行い、法的なリスクや重い確認申請をきれいに回避してスタートする。そして、現場の状況を見ながら次のステップを考える。こうした「手続きのクリアしやすさ(申請の確実性)」から逆算したライセンスの選択も、行政書士の目線から見ると現実的でスマートな解決策だったりします。

2. 設備と登記のパズル。「4点セット」と「未登記問題」から紐解く最適な選択肢

物件の法的なステータスや水回り設備の状況によっても、旅館業と民泊のどちらが適しているかのパズルが始まります。

① 民泊(新法)の絶対条件:「4点セット」と「完全な登記」

民泊を申請する場合、その建物は「住宅」でなければならないため、室内にキッチン(台所)、お風呂、トイレ、洗面設備の『4点セット』がすべて揃っていることが絶対条件です。さらに、建物が公的にしっかりと「不動産登記」されている必要があります。 そのため、第4回でお話ししたような「昔の持ち主が勝手にDIYで増築して、登記の面積と実際の形がまったく違う物件」や「そもそも未登記の離れがある物件」の場合、民泊の届出を通すのは極めて困難になります。

② 旅館業の柔軟性:「キッチン不要」と「未登記への対処」

一方で、旅館業(簡易宿所など)を選択する場合、実は室内にキッチン(炊事設備)がなくても許可を取ることが可能です。 例えば、「古い空き家でキッチンが完全に壊れていて、直すのに大金がかかる」という場合、民泊なら修理が必須ですが、旅館業なら「キッチンなしの素泊まり専用宿」として申請することで、リフォームの手続きや費用を大幅にカットできるケースがあります。

「手軽そうだから民泊にしよう」と思ったら設備のせいで手続きが大掛かりになり、逆に「ハードルが高そうだから」と敬遠していた旅館業のほうが、実は引き算の設計でスムーズに開業できた……なんていう逆転現象は、実務の世界では本当によくあることなのです。

3. 流行りの「トレーラーハウス」や「コンテナ」は民泊NGで旅館業ならOKな理由

最近、リゾート地や郊外の遊休地を活用した宿泊ビジネスとして、デザイン性の高い「トレーラーハウス」や「コンテナハウス」を使ったグランピング施設などが大流行していますよね。 基礎工事が不要で、いざとなれば移動や売却もできるため、非常に魅力的な選択肢に見えます。

「これなら建築コストも抑えられるし、民泊でサクッと届け出て始めたいです!」というご相談をよくいただくのですが、ここには法律の定義による決定的な罠があります。

結論から言うと、トレーラーハウスや移動式のコンテナで「民泊(新法)」の届出を出すことは、原則としてできません

なぜなら、何度も言うように民泊は「登記された住宅」であることが大前提だからです。地面に固定されておらず、車両扱いになっているようなトレーラーハウスは、法律上「住宅」として認められないため、民泊の対象外となってしまうケースがほとんどです。

しかし、ここで開業を諦める必要はありません。このトレーラーハウスやコンテナハウスこそ、「旅館業(簡易宿所など)」の独壇場になります。

旅館業は「住宅」を貸し出す制度ではなく、「宿泊施設」としての営業許可を出す制度です。そのため、トレーラーであっても、建築基準法上の扱いや消防法、保健所の衛生基準(適切なトイレや洗面所の設置など)をクリアすれば、旅館業のライセンスを使って堂々とラグジュアリーな宿泊施設を開業できる可能性も秘めております!(※許可権限を持つ自治体の判断によります。)

アウトドア型施設やグランピングといった最新のトレンドビジネスを展開したい場合は、民泊という枠組みに縛られず、最初から旅館業の許可一本にターゲットを絞って事業計画を練るのが、手続き上、最も間違いのない王道ルートと言えるでしょう。

おわりに

2回にわたって郊外・地方の物件をベースにお話ししてきましたが、同じ「人を泊めてお金をいただくビジネス」であっても、適用する法律(旅館業か民泊か)の選び方ひとつで、初期投資の額も、求められる改修工事の規模も、180度変わってしまいます。

ネット上にある「旅館業のほうが稼げる」「民泊のほうが簡単」といった一面的な情報だけを鵜呑みにして、一人で夜な夜な頭を悩ませる必要はまったくありません。物件ごとに、正解のルートは隠されているものです。

正直なところ、どのようなコンセプトにするか、どうやってゲストに選ばれる宿にするかといった「本来の事業計画」でさえ、実際にやってみると楽しいことばかりではなく、地道で大変な作業の連続のはずです。

だからこそ、こうした「行政との複雑な法律のパズル」を解く作業や、物件のスペックを見極めて最適なライセンスを選定するといった専門業務は、私たちプロにうまく外注してしまい、皆さんはご自身が本当にエネルギーを注ぐべき実務に集中してください。そうやって自分の時間とリソースを賢く配分することこそが、ビジネスを最短で軌道に乗せ、成功させるための大切な戦略だと思います!

ですので!「この広い物件、どっちで攻めるべき?」という贅沢な悩みを抱えた方も、大いにご依頼のご連絡をお待ちしております!!!(笑)

それでは、また次回のコラムでお会いしましょう🙌

行政書士法人NEXA 鈴木莉帆

筆者

行政書士法人NEXA 鈴木莉帆

5年間のBAR経営を通じて、接客や店舗運営の現場を経験。 開業1年目でコロナ禍に直面したことをきっかけに、先行きへの危機感から新たな分野を切り拓こうと一念発起し、行政書士資格を取得。 現在は民泊届出・旅館業許可をはじめとする宿泊施設の許認可支援を中心に取り扱い、これまでに100件以上の宿泊施設の許可取得に関わってきた。現場感覚を活かしながら、初心者の方にもわかりやすい実務的なサポートを心がけている。

newspaper カテゴリー

lightbulb

注目の著者

すべて見る →
こやま

こやま

だいたいワンシーズンごとに髪色が変わる。 ニューオで民泊運営代行に携わってたけど、気づ...

みかりん(新嶋美架子)

みかりん(新嶋美架子)

福岡県出身、ワンオペ育児の2児のママ。フリーアナウンサーとして活動後、大阪へ移住し専業主婦...

ユウカツ編集部|不動産M&A担当

ユウカツ編集部|不動産M&A担当

民泊事業の売買や事業承継、不動産M&Aに関する情報をリサーチ・発信しています。...

ユウカツ編集部|不動産・民泊ライター

ユウカツ編集部|不動産・民泊ライター

民泊・不動産活用・投資に関するコンテンツを担当。初心者にもわかりやすい情報発信を心がけてい...

lightbulb

注目記事

【初心者向け】民泊の事業譲渡ではどう評価する?事業価値の計算方法と確認ポイント

【初心者向け】民泊事業の撤退判断チェックポイント|赤字・稼働率・契約更新前に確認したいこと

【初心者向け】民泊の予約管理とゲスト対応のフロー|予約後からチェックアウト後までの実務ポイント

【初心者向け】民泊の価格設定と在庫管理とは?収益を落とさない考え方を解説

instagram
X_twitter

準備中です

この機能は現在準備中です。
もうしばらくお待ちください。

TOP